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第42話 黙秘権プリーズ!

last update Terakhir Diperbarui: 2025-11-05 06:07:10

 ルチアは、スティックに付着した血を、悪漢の服で雑に拭うと。

 何事もなかったかのように、カチリ。それを腰に差した“杖の隣”へと、何事もなかったかのように、収納した。

 杖との二本差し。つまり、あれは……折り畳み式の、対人魔術兵装。

「ベアトリーチェ様! お怪我は、ありませんでしたか」

「ひゃ、ひゃい! わ、わたくしは、だ、大丈夫ですけれど!?」

 ぱたぱたと駆け寄ってくるルチア。

 わたくしは恐怖のあまり、後ずさることしかできない。

 だって、怖い! この子、どう考えても、わたくしより、あの魔獣より、ずっと、ずっと、怖い!?

「え、でも。顔色悪いですよ? 本当に大丈夫ですか?」

 わたくしの手を取り、心配そうに、顔を覗き込んできた。どの口が言ってるのかしら、あなたは?!

 でも、こくこくと、頷くことしかできなかった。

「ふぅー、結構、いい運動になりましたね! あ、そうだ。司書さんに報告しなきゃ」

 「うぎゃー」とさらに、どこからか新たな悲鳴が聞こえてくる。バージル殿下の研究室からだった。

「あー。まだ、侵入者さんいたんですね。……一度、|魔術警報《セキュリティ》に検知されたら、図書館に住み着いている“知識のゴースト”さんたちに、魂吸われちゃうのに。あーあ、かわいそう」

「かわいそうって!? この図書館、危険地帯過ぎませんこと!?」

「そりゃ、国家の重要研究機関に付属する、機密書庫なんですから」

 当り前でしょう、とルチアは首を傾げる。

 わたくし、なんて恐ろしいところに忍び込んでいたのかしら。色んな意味での恐怖が、今さら、どっと伸し掛かってくる。

「でも。ちゃんと、お約束、果たせてよかったです。ベアトリーチェ様にも、お父様にも」

「あなたのお父様じゃありませんことよ?」

 機嫌よさそうにニコニコするルチア。いいから、頬の返り血を拭いてちょうだいよ。

 さっきまでの、戦いっぷりは幻覚だと思いたいけれど、証拠が目の
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